位相空間論 速習コース:素数の無限性や代数学の基本定理など

集合論

高校までの集合論は既知としたいが, いくつか復習をしておこう.

  1. $A \subset B \iff \forall x \in A, x \in B$.
  2. $f \colon A \to A ; a \mapsto a$ を恒等写像といい, $\operatorname{id}_A$, $\bm{1}_A$ などと書く.
  3. 写像 $f \colon A \to B$ に対し, ある写像 $g \colon B \to A$ が存在して, $g \circ f = \operatorname{id}_A$ となるとき, $g$ を $f$ の逆写像といい, $f^{-1}$ で表す.

集合論のウォーミングアップとして次の命題とその証明を読んでみよう.

これはどちらも部分集合の像としての記法であるから, これは値が一致するとかいうことではなく, 集合として等しいことを示さなければならない. $A = B \iff A \subset B \land B \subset A$ なので……

証明.

($\subset$) $\forall x \in f(A) \cap B \iff x \in f(A) \land x \in B \iff f^{-1}(x) \in A \land f^{-1}(x) \in f^{-1}(B) \iff f^{-1}(x) \in A \cap f^{-1}(B)$ なので, $x=f(f^{-1}(x))\in f(A \cap f^{-1}(B))$.

($\supset$) $\forall x \in f(A \cap f^{-1}(B))$, $f^{-1}(x) \in A \cap f^{-1}(B) \iff f^{-1}(x) \in A \land f^{-1}(x) \in f^{-1}(B) \iff x \in f(A) \land x \in B \iff x \in f(A) \cap B$.

位相空間論

たとえば有限集合 $\lbrace a\rbrace $, $\lbrace a, b\rbrace $, $\lbrace a, b, c\rbrace $ に開集合系を定めてみよう.

まず必ず空集合と全体集合を含むことを確認しておこう. その上で二つの条件を満たすように取っていけばよい.

一元集合では $\lbrace \varnothing,\lbrace a\rbrace \rbrace $. 二元集合では $\lbrace \varnothing,\lbrace a,b\rbrace \rbrace $, $\lbrace \varnothing,\lbrace a\rbrace ,\lbrace a,b\rbrace \rbrace $, $\lbrace \varnothing,\lbrace b\rbrace ,\lbrace a,b\rbrace \rbrace $, $\lbrace \varnothing,\lbrace a\rbrace ,\lbrace b\rbrace ,\lbrace a,b\rbrace \rbrace $. 三元集合は面倒なので書かないが29個. ちなみにどう増えていくかというと, 1, 4, 9, 29, 355, 6942, 209527, 9535241, 642779354, … といった具合だ.

素数の無限性

素数が無限個存在することは良く知られているが, 1955 年に Hillel Furstenberg が学部生のときに提出した位相空間論を用いた証明は教育的でありながら興味深い. まさにエラトステネスの篩をイメージしたような証明方法になっている.

任意の $a\in\mathbf{Z}\setminus\lbrace 0\rbrace$, $b\in\mathbf{Z}$ に対する $a\mathbf{Z}+b$ が開基となるような位相を $\mathbf{Z}$ に入れる.

証明.$\displaystyle a\mathbf{Z}+b=\mathbf{Z}\setminus\left(\bigcup ^ {a-1} _ {i=1} a\mathbf{Z}+b+i\right)$.

証明.$$\mathbf{Z}\setminus\lbrace\pm1\rbrace=\bigcup_{p\colon\text{素数}} p\mathbf{Z}$$ 左辺は有限集合 $\lbrace\pm1\rbrace$ の補集合であるから(空集合でない有限集合はこの位相では開集合でないので)閉集合ではない. 一方で右辺は閉集合の合併である. 閉集合の合併集合が閉集合でない状況は無限個の合併をとっている場合にしか起き得ない.

代数学の基本定理

代数学の基本定理を厳密に述べると「定数でない複素係数多項式は少なくとも一つの複素数根をもつ」となる. 言い換えると「複素数体は代数閉体である」ということだ.

まずいくつかの基礎的な事項を確認しておこう. 複素数の定義は厳密には難しいのだが, たとえば高校では $i^2 = -1$ なる “数” を想定して, 実数 $a$, $b$ で $a+bi$ となるような数を複素数としている. ところが当然ながら $i^2=-1$ などという実数は存在しない. たとえば「多項式の集合 $\mathbf{R}[X]$ の元をすべて $X^2+1$ で割った余りとみなす」というのがよくある方法だ. そうするとすべて $aX+b$ 型の数になり,「余りだけを考える」というのは, $X^2+1=0$ とみなしているようなものなのだから, 実質的に $X$ は $i$ なのである.

次に, 方程式を調べる上で非常に有用な因数定理を紹介しよう.

証明.商を $Q(x)$, 余りを (1次式で割るので定数だから) $R$ とおくと, $f(x)=(x-a)Q(x)+R$ である. $x$ に $a$ を代入して $R=f(a)$ を得る.

証明.剰余の定理より従う.

これを用いることで, 難しい議論をせずとも次の事実は示される.

証明.$n$ 次方程式が $n$ 個より多い解をもつとき, そのうち $n+1$ 個の解 $a_1, \dots, a_{n+1}$ をとってくると, 因数定理から $(x-a_1)\cdots(x-a_{n+1})$ を因数にもつので $n+1$ 次の項が現れ, これは矛盾.

一方, 代数学の基本定理「定数でない複素係数多項式は少なくとも一つの複素数根をもつ」が示されれば, 因数定理を逐次用いることで (重複度含め) $n$ 個ピッタリの解をもつことが分かる. この事実を以って代数学の基本定理と呼ぶこともあるが, これはむしろその系と呼ぶべきである.

次の問題は代数学の基本定理を使うことでエレガントに解ける問題として有名だが, 別にこれは命題 2.7 から従うので必要ない.

$\displaystyle a+\frac{1}{a}=b+\frac{1}{b}=c+\frac{1}{c}$ が成り立つならば $a$, $b$, $c$ のうち少なくとも2つは一致する.

証明.$\displaystyle a+\frac{1}{a}=b+\frac{1}{b}=c+\frac{1}{c}=k$ とおくと, $a$, $b$, $c$ は方程式 $x^2-kx+1=0$ の解であり, 解は高々2個. したがって $a$, $b$, $c$ のうち少なくとも2つは一致する.

距離空間

まず複素数に位相を入れることを考えよう. そのために距離空間について説明をする必要がある.

距離空間 $(X,d)$ に対し, $X$ の部分集合の族 $\mathcal{O} _ {距離}$ を, $\forall a \in O, \exists r > 0, B(a,r) \subset O$を満たす $X$ の空でない部分集合 $O$ の全体と, 空集合 $\varnothing$ からなるとする. このとき $\mathcal{O}_{距離}$ は開集合系となっており, 距離位相などと呼ぶ.

$\mathbf{R}$ と $\mathbf{C}$ を距離空間として扱ってみよう.

もちろん $\mathbf{R} \subset \mathbf{C}$ であり, それに応じて複素数の絶対値が実数の絶対値の定義を内包していることが大事である. このようなプロセスを「定義を拡張する」という.

それでは, 絶対値を用いてノルムを定義する. これは「拡張」というよりむしろ「一般化」というのが適切なフィーリングである.

Euclid ノルムは $\mathbf{R}^n$ 上の距離となる. 一方, $\mathbf{C}^n$ は $\mathbf{R}^{2n}$ とみなすことで同様に Euclid ノルムを入れることができる. 上の注と合わせて「複素数の絶対値とは, 実部と虚部のベクトルのノルムとみなしたもの」といえる.

証明.Archimedes の原理より従う.

コンパクト性は一見掴みづらい概念であるから, 初等的な命題にも証明を与えることにする.

証明.有限集合 $X=\lbrace x_1,\dots,x_n\rbrace $ の任意の開被覆 $\lbrace U_{\lambda}\rbrace _ {\lambda\in\Lambda}$ に対し $x_i\in U_{\lambda_i}$ なる $U_{\lambda_i}$ をとると, $\displaystyle\bigcup_{i=1}^{n} U_{\lambda_i}$ は $\lbrace U_{\lambda}\rbrace _ {\lambda\in\Lambda}$ の有限部分被覆.

証明.$\left\lbrace \left(\dfrac{1}{n},1\right)\right\rbrace _{n\in\mathbf{N}}$ は $(0,1)$ の開被覆であり, これは有限被覆を持たない.

コンパクト性は ``ある種の’’ 有限性を表している.

証明.

背理法で示す. 閉区間を$[a,b]$とおき,有限部分被覆をもたない開被覆$\mathcal{U}$が存在したとしよう. このとき $[a_0,b_0]$ を $[a,b]$, $[a_{n+1},b_{n+1}]$ を $\left[ \dfrac{a_n+b_n}{2},b_n \right]$ と $\left[a_n,\dfrac{a_n+b_n}{2}\right]$のうち有限被覆を持たない方と定めた縮小閉区間列をとる(どちらも有限被覆をもてばそれらを合併して有限被覆を得られるから$[a,b]$に帰着して$\mathcal{U}$の定義に矛盾し, どちらも持たなければ任意に一方を選んでよい).

区間縮小法により$c=\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\displaystyle\lim_{n\to\infty}b_n$なる$c\in[a,b]$が存在し, $c$を被覆する開区間$(\alpha,\beta)$がとれる. ここで正数$\varepsilon=\min\lbrace c-\alpha,\beta-c\rbrace $をとれば$(c-\varepsilon,c+\varepsilon)\subset(\alpha,\beta)$である. ここで$a_n-b_n=\dfrac{a-b}{2^n}$に注意すれば$c\in[a_n,b_n]\subset\left[c-\dfrac{a-b}{2^n},c+\dfrac{a-b}{2^n}\right]$であるから, ある$N$を$\dfrac{a-b}{2^N}<\varepsilon$となるように取れば$[a_N,b_N]\subset(\alpha,\beta)$より有限被覆が存在し矛盾.

証明.$x\in Y^{\complement}$ を任意にとり, 固定する. 各 $y\in Y$ に対して $x$ を含む開集合 $U_y$ および $y$ を含む開集合 $V_y$ で, $U_y\cap V_y=\varnothing$ を満たすものをとる. このとき $\lbrace V_y\rbrace _ {y\in Y}$ は $Y$ の開被覆なので, 有限個の $y_1,\dots,y_n\in Y$ が存在して, $Y\subset V_{y_1}\cup\cdots\cup V_{y_n}$ が成り立つ. このとき $U=U_{y_1}\cap\cdots\cap U_{y_n}$ とおくと, $U$ は $x$ を含む開集合で, $Y$ と交わらない. これは $Y^{\complement}$ が $x$ の近傍であることを意味する. 以上で補集合 $Y^{\complement}$ が開集合であることが示された.

証明.
  1. ($\Rightarrow$) 命題 2.19 と閉集合の共通部分は閉集合であることより.
  2. ($\Leftarrow$) $F=\operatorname{Int}F$ を示す. 定義より $\subset$ が従うので, $\supset$ を示す. $x \in \operatorname{Int}F$ をとると, $X$ が Hausdorff 局所コンパクトであることから, $x$ のコンパクト近傍 $N$ が存在し, 仮定より $F \cap N$ は $N$ の閉集合である. ここで $F \cap N = \operatorname{Int}(F \cap N) = \operatorname{Int}(A) \cap N$ が成り立つ. $x \in \operatorname{Int}F \cap N$ なので $x \in F \cap N \subset F$ が成り立つので $x \in F$. よって $\operatorname{Int}A \subset A$ が示された.

証明.$K \cap F$ の開被覆 $\mathcal{U}$ をとる. このとき $F$ は閉集合なので $X \setminus F$ は開集合で, $\mathcal{U} \cup \lbrace X \setminus F\rbrace $ は $K$ の開被覆. $K$ はコンパクトなのでこの開被覆の有限部分被覆 $\mathcal{V} \setminus \lbrace X \setminus F\rbrace $ は $\mathcal{U}$ の有限部分被覆である.

証明.$A \subset X$ を閉集合とし, $K$ を $Y$ のコンパクト部分集合とすると, 射影公式より $f(f^{-1}(K) \cap A) = K \cap f(A)$ となる. $f$ が固有なので $f^{-1}(K)$ はコンパクトで, $f^{-1}(K) \cap A$ は補題よりコンパクト集合となる. したがって $K \cap f(A)$ もコンパクトで, $Y$ の Hausdorff 性から閉集合でもある. $K$ は任意で $Y$ は Hausdorff 局所コンパクトなので $f(A)$ は閉.

証明.

$p(z) = a_nz^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots +a_1z+a_0$ を定数でない複素係数 $n$ 次多項式とし, $C = \lbrace z \in \mathbf{C} \mid p ^ \prime(z) = 0\rbrace $ とする.

$C$ は命題 2.8 から高々 $n-1$ 個の元であり, $p^{-1}(p(C))$ も有限集合である.

$X = \mathbf{C} \setminus p^{-1}(p(C))$, $Y = \mathbf{C} \setminus p(C)$ とする.

$p(X) \subset Y$ は自明に成り立つ. 多項式写像 $p\colon \mathbf{C} \to \mathbf{C} ; z \mapsto p(z)$ は固有であり (多項式写像は当然連続であるので, $\left|z\right| \to \infty \Rightarrow \left|p(z)\right| \to \infty$ に注意すれば分かる), $\mathbf{C}$は Hausdorff 局所コンパクト空間であるから, 補題 2.29 より $p$ は閉写像である. よって, $p(\mathbf{C}) \subset \mathbf{C}$ は閉集合. そして, $p(X) = Y \cap p(\mathbf{C})$ であるから, $p(X) \subset Y$ も閉集合である.

次に, 任意に $y \in p(X)$ をとり, $y = p(x)$ なる $x \in X$ を一つとる. $C$ の定義より $x$ は正則点であるから, 逆写像定理により $x$ (resp. $y$) の開近傍 $U$ (resp. $V$) が存在して, $f|_U\colon U \to V$ は全単射となる. 特に $y$ は $p(X)$ において開近傍をもつことが分かり, $p(X) \subset Y$ は開集合であることが分かった.

さて, $Y$ は連結であるから ($\mathbf{C}$ から有限個の点を除いても連結である), $p(X) = Y$ が示された.

すなわち, $p$ は全射である.

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