松野陽一郎『なるほど!とわかる線形代数』第一回

定義 1(ベクトル空間)$K=\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とする1。集合 $V$ が $K$ 上のベクトル空間であるとは、$V$ 上の足し算と、$K$ の元によるスカラー倍が定義されていて、かつ次を満たすことである。

  1. 任意のベクトルの和が次を満たす:
    • 結合法則
    • 交換法則
    • ゼロベクトルの存在
    • 逆元の存在
  2. 任意のベクトルスカラー倍が次を満たす。
    • 分配法則(前)
    • 分配法則(後)
    • 2 種の積が可換:$\beta(\alpha\bm{u})=(\beta\alpha)\bm{u}$
    • スカラー倍の単位性:$1\bm{u}=\bm{u}$

定義 2(計量ベクトル空間)$K=\R$ 上のベクトル空間が次を満たすとき計量ベクトル空間であるという。

  1. 双線型性 1:$(\bm{u}+\bm{u ^ {\prime}}\mid\bm{v})=(\bm{u}\mid\bm{v})+(\bm{u ^ {\prime}}\mid\bm{v}),(\bm{u}\mid\bm{v}+\bm{v ^ {\prime}})=(\bm{u}\mid\bm{v})+(\bm{u}\mid\bm{v ^ {\prime}})$
  2. 双線型性 2:$(\alpha\bm{u}\mid\bm{v})=\alpha(\bm{u}\mid\bm{v}), (\bm{u}\mid\beta\bm{v})=\beta(\bm{u}\mid\bm{v})$
  3. 対称性:$(\bm{v}\mid\bm{u})=(\bm{u}\mid\bm{v})$
  4. 正値性:$(\bm{u}\mid\bm{u})\geqq0$, 等号成立は $\bm{u}=\bm{0}$.

$K=\mathbb{C}$ においては単純に要請することはできないので後に詳しく議論する。

定義 3($n$ 次元数ベクトル空間)数を $n$ 個たばねたものを $n$ 次元数ベクトルといい、それをすべて集めた集合を $n$ 次元数ベクトル空間という。成分は必ずスカラー体から取る。たとえば $\mathbb{R}$ であれば $$\mathbb{R}^n=\left\lbrace\begin{pmatrix}x_1\\ \vdots\\ x_n\end{pmatrix}\middle|\ x_i\in\mathbb{R}\right\rbrace$$ となる。これは $n$ 次元ユークリッド空間とも呼ばれる。

定義 4(次元, 基底)$K$ 上のベクトル空間 $V$ に属するベクトル $\bm{b} _ 1,\bm{b} _ 2,\dots,\bm{b} _ n$ で $$\exists_1 a_1,a_2,\dots,a_n\in K\text{ s.t. }\bm{v}=\sum_{i=1}^n a_i\bm{b} _ i$$ のときベクトル空間 $V$ の次元は $n$ であるといい、$\dim V=n$ と表す。また、$V$ を $n$ 次元ベクトル空間という。$\lbrace\bm{b} _ 1,\bm{b} _ 2,\dots,\bm{b} _ n\rbrace$ は $V$ の基底であるという。

定義 5(線形独立, 線形従属)いくつかのベクトルに対し、どれかが他のベクトルで表せたとき線形従属といい、どれも他のベクトルで表せないとき線形独立という。

定義 6(部分ベクトル空間)$K$ 上のベクトル空間 $V$ の空集合でない部分集合 $W$ について

  1. $\bm{u},\bm{v}\in W\implies \bm{u}+\bm{v}\in W$
  2. $\bm{u}\in W,\ \alpha\in K\implies \alpha\bm{u}\in W$

のとき $W$ を $V$ の部分ベクトル空間という。


  1. 標数が $0$ の体であればなんでもよい ↩︎

関連記事